「では、失礼します」

 ドアの前で、ファルさんは引き留めるように俺に話しかける。

「今日はごめんなさい」
「なにがですか?」

 とぼけてそう言うと、ようやく彼女にいつもの笑みが戻ってきた。手は、まだ翼に触
れていた。

「その翼は、あなたそのものだと思います。美しくて、それでいて――」
「綺麗な言葉ね」

 彼女は、もう一度繰り返した。

「でも……」
「また、アンサンブルに誘ってください。俺は、いつでも、あなたのためになんだって
しますよ」
「……私の話を聞いても、それでもそう言ってくれるんですか?」
「もちろんです。俺は……あなたのことが知りたいんです」

 その瞬間だった。
 初めて彼女に会ったときと同じ変化を、彼女の中に見た。
 やはり、その変化を言葉にすることなどできなかった。

「アーシノさん」
「……はい」
「いつか、その時が来たら――あなたは知ることになるわ」

 まるで預言者のように、全く違う誰かが、彼女の口を借りて話しているようだった。

「アーシノ・アルティエーレ」  彼女は、俺の名をもう一度呼んだ。
「いつか、その時が来たらね」
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